大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)2960号 判決
【主文】
一 被告らは、原告丸林勲に対し、連帯して金一七万四八五九円及びこれに対する昭和五八年五月一〇日(ただし、被告ジョセフ・オーガスタス・ストラノについては昭和五八年五月一三日)から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告丸林勲のその余の請求及び原告有限会社新大阪物産の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告丸林勲と被告らの間においては、原告丸林勲に生じた費用の一一分の一を被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告有限会社新大阪物産と被告らの間においては、全部原告有限会社新大阪物産の負担とする。
四 この判決は、原告丸林勲勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
【事実】
第一 当事者の求めた裁判<省略>
第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告丸林勲(以下「原告丸林」という)は次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件意匠」という)の登録を受けた。
出願 昭和五三年一二月五日(意願昭五三―五一七八九)
登録 昭和五五年一月三一日
意匠に係る物品 包装用箱
登録意匠 別紙意匠公報の記載のとおり。
(二) 原告有限会社新大阪物産(以下「原告物産」という)は原告丸林から昭和五六年五月二九日本件意匠権を譲受け、その旨登録をなした。
2 被告ルナ株式会社(以下「被告ルナ」という)は、被告株式会社ジエ・ストラノ商会(以下「被告商会」という)の指示の下に別紙イ号目録記載の包装用箱(以下「イ号物件」という)にオーデコロンを入れた「SUM-MIT」という名の商品を業として製造販売し、被告商会は右商品を中近東諸国等に業として輸出し販売してきた。
3 イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という)は本件意匠の類似範囲に属する。
(一) 本件意匠の構成
(1) 箱全体に同一の図柄を配している。
(2) 図柄は別紙図柄目録(一)記載のもの(以下「図柄(一)」という)と同目録(二)記載のもの(以下「図柄(二)」という)をそれぞれ一つおきに交互に並べている。
なお、原告らの包装用箱の色は、下地に黒色を配し、その上に黄金色の図柄を配している。
(二) イ号意匠の構成
(1)' 箱全体に同一の図柄を配している。
(2)' 図柄は図柄(一)と別紙図柄目録(三)記載のもの(以下「図柄(三)」という)とをそれぞれ一つおきに交互に並べている。
なお、色は下地に黒色を配し、その上に黄金色の図柄を配している。
(三) 本件意匠とイ号意匠を対比すると、全体の図柄の配置、色の配し方、図柄の並べ方は全く同じであり、箱の大きさ、図柄の大きさもほぼ同じである。
わずかに、図柄そのものに少しのちがいはあるものの、一方が図柄(一)(二)を並べたものであり他方が図柄(一)(三)を並べたものでありきわめて似ており、結局両意匠は全体として類似しているということができる。
4 被告ルナ、被告商会は、被告ルナがイ号物件及び「SUMMIT」という名の商品を製造販売し、被告商会が右商品を輸出し販売することが本件意匠権を侵害することを知り、又は過失により知らないで右行為をなしたものであるから、共同不法行為者として原告らの蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。
また、当時被告橋屋秀夫(以下「被告橋屋」という)は被告ルナの、被告ジョセフ・オーガスタス・ストラノ(以下「被告ストラノ」という)は被告商会の代表者代表取締役であり、被告ルナ、被告商会の前記各行為が本件意匠権を侵害することを知り又は過失により知らないで右行為をなしたものであるからそれぞれ被告ルナ、被告商会と不真正連帯の関係で原告らの蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。
5 原告らの損害
(一) 原告丸林の分(昭和五五年八月から同五六年五月まで)
被告ルナ、被告商会は昭和五五年八月から同五六年五月までの間合計五八二万八六五〇円の売上額があつたところ、少なくともその利益率は三〇パーセントを下らないのであるから利益額は一七四万八五九五円となり、右金額が昭和五五年八月から同五六年五月までの間の原告丸林が蒙つた損害と推定される(意匠法三九条一項参照)。
(二) 原告物産の分(昭和五六年六月から同五八年三月まで)
原告物産は原告製品の製造販売により月額三〇万円の利益を得ていたが、被告らの前記侵害行為のため右販売がとだえ、月額三〇万円の損害を受けてきており、昭和五六年六月から同五八年三月まで二二か月で計六六〇万円の損害を蒙つている。
(三) 原告丸林と原告物産は結局一体となつた存在であり、原告丸林の損害が認められない場合はその分は原告物産に認められるべきであり、逆に原告物産に認められない場合は、その分は原告丸林に認められるべきである。
よつて、原告らは、本件意匠権に基づき、被告らに対し連帯して各損害金及び右各金員に対する不法行為の日の後で本訴状送達の日の翌日である昭和五八年五月一〇日(ただし被告ストラノについては同月一三日)から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。<以下、事実省略>
【理由】
一<証拠>によれば請求原因1(一)(二)の事実(原告丸林が昭和五五年一月三一日本件意匠権の登録を受け、昭和五六年五月二九日原告物産に譲渡したこと)が認められる。
二被告ルナがイ号物件にオーデコロンを入れた商品を業として製造販売し、被告商会が右商品を中近東諸国に、業として輸出し販売していることは当事者間に争いがない。
三イ号物件が本件意匠に係る物品と機能及び用途を同じくする包装用箱であることについては<証拠>により認められるので、以下イ号意匠と本件意匠の類否について検討する。
1 <証拠>によれば、本件意匠は次の構成を有することが認められる。
(一) 六面(正面、背面、左右側面、平面、底面)全体に
(二) 多数の、四隅のまるくなつた正方形(図柄(一))と英字のGを図案化したもの(図柄(二))との二つの図柄を
(三) 上下左右に交互に整然と配した
(四) 縦長直方体の包装用箱
(なお、前記<証拠>によれば、本件意匠権の実施品である原告物産の包装用箱は下地に黒色を配し、図柄は黄金色あるいは銀色であることが認められるが、本件意匠の意匠公報には色彩について何らの記載、すなわち限定がなく、したがつて本件意匠の構成及び対比に関して色彩を考慮する必要はない。)
ところで<証拠>によれば、本件意匠の構成のなかで、右多数の図柄(一)と図柄(二)とを上下左右に交互に整然と配し模様を作つた点、とくにその図柄(一)が四隅のまるくなつた正方形であるのに対し、図柄(二)が英文字のGを肉太に書きながら、まるみを帯びた正方形に近似した形となし、かつその両者の大きさをほぼ同一として均整感を抱かしめる点が目新しく、したがつて右部分が看者の注意を強く引く部分、すなわち要部であると認められる。
2 <証拠>によれば、イ号意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(一)' 六面全体に
(二)' 多数の、四隅のまるくなつた正方形(図柄(一))と、英字のLを図案化して二つ組み合わせたもの(図柄(三))との二つの図柄を
(三)' 上下左右に交互に整然と配し
(四)' 正面、背面、左右側面の中央部分(全体の約三分の一程度)は帯状に何らの図柄も表示されず、
(五)' 底面中央には四隅のまるくなつた長方形が配された
(六)' 縦長直方体の包装用箱
3 そこで以上の両意匠を対比すると、両者は、六面全体に(構成(一)と(一)')、多数の、四隅のまるくなつた正方形(図柄(一))といずれも英字を図案化したもの(図柄(二)又は(三))との二つの図柄を(構成(二)と(二)')、上下左右に交互に整然と配した(構成(三)と(三)')縦長直方体の包装用箱(構成(四)と(六)')である点で共通しているが、右構成(二)と(二)'とにおいて本件意匠は図柄(二)を用い、イ号意匠は図柄(三)を用いたものであること、イ号意匠にはその中央部分に帯状に図柄の表わされていない部分が存し(構成(四)')、底面部に四隅のまるくなつた長方形の模様がある(構成(五)')点で相違している。
しかしながら、右図柄(二)と図柄(三)との相違は、意匠の要部に関するものであるけれども、イ号意匠の図柄(三)も本件意匠の図柄(二)と同様略正方形に、かつそれと交互に配される図形(一)の正方形とほぼ同じ大きさに描かれていることによつて前記本件意匠の要部に見られると同種の均整感を有するため、これを隔離的かつ全体的に観察するときは殆んど同一の整美感を抱かざるを得ないものである。したがつて両者の右の差は部分的な僅かなものと認められ、また、イ号意匠の中央部分に帯状に図柄の表わされていない点についても、<証拠>によれば、包装用箱において中央部分を帯状に図柄の表示されない部分を設けることはありふれたことであることが認められ、更に底面部の四隅のまるくなつた長方形の模様も通常見えにくい部分の相違にすぎない。
そうすると、両者の意匠を全体的に観察するときは、右相違点は存するものの、前記共通点によつて互いに類似するものと認めることができる。
四以上の説示のとおり、イ号意匠は本件意匠の類似範囲に属し、したがつて、被告ルナはイ号物件にオーデコロンを入れた商品を業として製造販売し、被告商会は右商品を業として輸出し販売することにより、本件意匠権を侵害したということができる。
五被告ルナ、被告商会の前記各侵害行為が不法行為法上の違法行為であることはいうまでもなく、右違法行為は、過失によつてなされたものと推定される(意匠法四〇条)。
<証拠>によれば、被告ルナは自社製造の商品をすべて被告商会に販売し、被告商会がこれを輸出していること、イ号物件及び商品「SUMMIT」の製造は被告商会より指示があり被告ルナが製造し、被告商会に納入したことが認められる。
右事実によれば、被告ルナ、被告商会はイ号物件に関しては密接な関係のもとに、被告ルナが製造、被告商会が販売をそれぞれ担当し、両者共同してイ号物件を製造販売してきたものと認められるから共同不法行為者として、右製造販売により生じた原告らの損害を連帯して賠償する責任があるというべきである。
<証拠>によれば、被告ルナ、被告商会が前記侵害行為をなした当時、被告橋屋は被告ルナの、被告ストラノは被告商会の各代表取締役であり、そのころ原告丸林及び原告物産の本件意匠権の登録がなされていたことが認められ、右事実に前記判示のイ号意匠が本件意匠の類似範囲に属することを総合すると、被告橋屋及び被告ストラノはイ号物件の製造販売が本件意匠権の侵害になることを少なくとも過失により知らなかつたことが推認できる。
右事実によると、被告橋屋、被告ストラノはそれぞれ被告ルナ、被告商会と不真正連帯の関係で、被告ルナ、被告商会の前記侵害行為により原告らの蒙つた損害を賠償すべき義務がある。
六そこで損害額について検討する。
1 原告丸林は、損害額として意匠法三九条一項を援用し、被告ルナ、被告商会が得た利益額が自己の損害額として推定されると主張するけれども、<証拠>によれば、原告丸林は原告物産の従業員であり個人として本件意匠を実施して製品の製造販売をしたことはないことが認められるから(また、原告らは、原告両名が一体となつた存在であると主張するが、本件全証拠によるも右事実を認めるに足りない)、かかる場合には、前記法条を適用することは相当でなく、意匠法三九条二項に基づき本件意匠権の実施料相当額をもつて権利者の蒙つた損害とみるべきである(大阪地裁昭和五五年六月一七日判決、無体財産関係民事・行政裁判例集第一二巻第一号二四二頁参照)。
被告ルナが昭和五五年八月から同五六年五月までの間五八二万八六五〇円の売上額があつたことは当事者間に争いがない。
そして本件意匠権の実施料率は、本件意匠の内容、本件意匠に係る物品が包装用箱であり、右売上額は中身のオーデコロンを含めての価額であること(<証拠>)、その他当裁判所に顕著なこの種意匠の実施料率の相場に照らすと、売上額の三パーセントをもつて相当と考える。
したがつて、582万8650×0.03の計算式により実施料合計額は一七万四八五九円(少数点以下切捨)となる。
2 原告物産は昭和五六年六月から同五八年三月までの間被告らの侵害行為により合計六六〇万円の損害を蒙つたと主張するが、本件全証拠によるも、被告ルナ、被告商会が右期間、イ号物件及び商品名「SUMMIT」を製造販売したことを認めるに足りる証拠はなく、したがつて原告物産の右主張は採用できない。<以下、省略>
(潮久郎 徳永幸藏)